【社長コラム】イノベーションの流儀   第16回 トップ自ら成長する(完結)

【社長コラム】イノベーションの流儀   第16回 トップ自ら成長する(完結)

桜シーズンが終わるとともに、外国人観光客が減少するかと思いきや、今ではオールシーズン外国人観光客が増加傾向にあるのか、
どこに行ってもあらゆる国の言語が耳に入ってくる時代になったようです。
先月下旬に上野公園近くの居酒屋に行ったのですが、店内はお花見目的の外国人観光客でごった返していました。
先日会食で肉料理の高級店に行った時の話ですが、隣のテーブルにいた中国人の若者男女5人の行動が奇妙に映りました。
中国人観光客と言えば大きな声で喋る煩い観光客というイメージだったのですが、
5人が5人とも無言で出てくる料理をスマフォのカメラに収めている光景には驚きました。
去年の流行語大賞に選ばれた「インスタ映え」そのものの光景です。
そのお店はコース料理しか出さないお店なのですが、コースの途中で精算し、全員退店してしまいました。
ミシュランの星を持つお店の美味しい肉料理を最後まで味わう訳でもなく、
インスタグラムに投稿するためだけに高い料金を支払う中国人観光客の行動は全く理解出来ませんでした。
訪日観光客を国別にいろいろ観察してみるのも面白いかもしれません。

さて本題に入りましょう。
前回は全社員を都内のホテル集めて新しいビジョンや構造改革、特に拠点集約について、トップ自ら語り、
その後も支店事業部を巡回し、理解を求めた話をしたと思います。
今回はそれを受けてその後起きた事の話を紹介しましょう。

現場を巡回している途中から、私を誹謗中傷するブラックメールが何通か届くようになり、脅迫めいた手紙も本社に寄せられました。
もちろん、正々堂々と名前を書いて反対意見を寄せる社員もいました。

ここで私が何を考えたかです。
これだけ反対意見が多いと言うことは、それほど大きく変化することだと受け取りました。
私にとっては嬉しい反応です。
差出人不明の誹謗中傷するフリーメールにも、私の理念ビジョン、イノベーションの必要性を熱く語りました。
(そんなブラックメールに返信する必要はないと考える方がほとんどだと思いますが、、、)
良く受け取れば、会社を想ってのメールだと考えれば腹も立ちませんから。(苦笑)

そして新しい組織体制がスタートするにあたって、
顧客の課題解決につながる価値提供ができる組織スタイルに変える必要がありました。
今までのような社員一個人に任せっぱなしの個人戦では、新しい事業領域を拡大するのは不可能な話です。
個人戦から組織戦に変える必要がありましたが、社員の関心は自分がどの部署に所属し、
どんな仕事をさせられるのかに目が向いていました。

そんな中で、私の頭に浮かぶのは米国企業のマリッツ社でした。
3年前に見た光景が未だに忘れられません。
以前のコラムの中でも少し触れさせていただきましたが、
米国での研修の講師役として赴いたロサンゼルス郊外で見た、日系自動車メーカーの米国本社の光景です。
巨大な敷地内に見覚えがあるロゴがつけられた1つのオフィス棟が目に飛び込んで来ました。
それがマリッツ社の専門部隊が入るオフィスで、その自動車メーカーのためだけに数百人も働いていると聞いて驚きました。
初めてセントルイスにあるマリッツ本社を視察してから24年もの時が経っても、
未だにマリッツ社はその顧客から信頼され続けてきたビジネスパートナーだったのです。

マリッツ社をベンチマークに置き、自分自身が拘る経営理念の一文にある、
「良きビジネスパートナー」を目指すことを全社員に浸透させて行く、同じ価値観をシェアすることに力を注ぎました。
毎月全社員に発信する社長メッセージ、各種会議、現場の朝・夕礼、社内コンベンションにおける社長プレゼン、
私自身が講師役を務める若手社員を対象にした研修の場でも訴え続けました。
おそらく社員からすれば、耳タコだったのではないでしょうか。

そしてまず始めたことは、現場トップである支店長・事業部長を集めた戦略キャンプです。
中期・次年度の全社のビジョン、戦略を私から全員に伝え、
それをベースにそれぞれの支店・事業部の中期・次年度事業計画を現場トップ自ら考えさせることでした。
今までは部下が作成した事業計画に自分の意見を落とし込む程度だったのが、
マーケット・顧客分析、目標ターゲットの設定から始まり、顧客の課題の洗い出し、
その解決方法、その実現に向けた戦略・戦術の構築まで、
顧客から認められるビジネスパートナーになるために、現場トップ自ら考えることに意義がありました。

泊まり込みですから、十分時間はあります。
普段使わない脳をフル回転し、ヘトヘトになるまでそれぞれのグループで議論を続け、
一定の骨格が出来上がったのが午後11時過ぎ。全員に缶ビールを配り、乾杯しました。
喉に染み渡る冷えたビールの味は普段とは違って格別なものでした。

翌日は具体策を議論し、肉付けをした上で、夕方にグループ毎のプレゼンです。
やはり自ら考えたものですから、熱く語る支店長・事業部長の姿がそこにありました。
戦略キャンプの打ち上げ後は、それぞれの支店・事業部に戻り、さらに議論を重ね、
出来上がった事業計画を全役員の目の前でプレゼンをしてもらいました。

大した訂正もなく、一発で承認された支店・事業部もあれば、何度も出し直しをさせられた個所もありました。
最終的に全支店長・事業部長の計画達成へのコミットメントが終わり、
その後は現場トップ自らそれぞれの所属員にプレゼンをすることでした。
その日時は社内Webに掲載され、登録すれば所属以外の支店・事業部のプレゼンを誰でも聞ける仕組みを作りました。
私は登録せずに突然現場に行き、一番後ろで聞いていましたので、当時の支店長・事業部長は相当やりづらかったと思います。

後はその事業計画を実行するのみです。
実行するために大きく掲げたのが、組織戦を可能にするためのトップセールスの推進でした。
顧客の経営そのものに関わる上位の課題を解決するためには、現場トップ自ら顧客に足を運ぶ必要があったからです。
そうすると、担当者や課長レベルの訪問では出てこなかった課題が顕在化してきました。
もちろん、私も大口顧客には自らトップセールスを仕掛けました。
我々が顧客の良きビジネスパートナーになるためには、顧客の上位課題まで解決できるような組織スキルを身につけて行くためにも、
トップセールスは必要不可欠な条件でした。
そのためには私自身もそうですが、現場トップも自ら成長しなければなりません。
それぞれのリーダーの器以上には、支店・事業部、全社も成長しないのですから。

まずは上が変わらなければ、組織イノベーションは無理な話です。
トップセールスは、全社員をマーケット・顧客に正対させるためのもっとも有効な方法のひとつだと私は思います。
人が育つ組織は、それぞれのトップが社外に目を向け、ビジネスの世界で通じるスキルを磨き、
成長することから始まるのではないでしょうか。
多くの経営者から、「社員が育たない」「社員が社内しかみていない」などの言葉をよく耳にしますが、
それは私も含めて、「他人は自分を映す鏡」だと思います。

自ら成長し続けることが、人が育つ組織となり、常にイノベーションが起きる組織になるのではないでしょうか。
当社も、技術革新をはじめ社会環境が大きく変化する中で、サステナビリティの視点からも未来を洞察し、
これからの時代のニーズに応えられるイノベーションカンパニーを目指してまいりたいと思いますので、
引き続き皆さまのご協力ご支援のほど、よろしくお願いいたします。

長きに亘りご愛読いただき有難うございました。